【朝日新聞】（社説）政権中枢襲撃　許されぬ政治への暴力

　民主主義の最も重要な基盤である選挙のさなかに、政権の中枢が襲われた。３年続けて国政選挙中に政治家や政党に暴力が向けられたのは、深刻な事態である。事件の背景を徹底的に究明し、民主政治を支える自由な社会を守らなければならない。　東京・永田町の自民党本部に一昨日の早朝、男が火炎瓶のようなものを複数投げ込んだ。その後、車で逃走し、近くの首相官邸前の車両侵入防止柵に突っ込み、警察官に発煙筒のようなものを投げつけた。男は公務執行妨害容疑で現行犯逮捕された。

目立ったけが人はなかったものの、男の車内からは、使われなかった火炎瓶や、ガソリンなどが入ったポリタンク約２０個が見つかった。大きな被害を招いた可能性は否定できない。

２年前には、元首相が参院選の応援演説中に銃撃され死亡した。昨年は現職の岸田首相（当時）が衆参両院の補欠選挙の遊説中に爆発物を投げつけられ、警護の警察官に守られ難を逃れた。

海外でも要人への襲撃が相次いでいる。米国では今年７月、大統領選に向けた選挙集会でトランプ前大統領が銃撃され、負傷。２カ月後にも、ゴルフ中を狙った暗殺未遂事件が起きた。

今回の事件は政治家を直接、標的としてはいないが、政権党の本部や首相の執務場所が狙われた衝撃は大きい。主義主張が違っても、言論によって粘り強く一致点を見いだすのが民主政治であり、対立する意見を暴力で排除する行為は断じて許されない。

容疑者は警察の調べに対し、黙秘しているという。捜査を尽くし、動機や背景の解明につなげてもらいたい。

石破首相は衆院選の応援演説の中で、「民主主義が暴力に屈することがあっては絶対にならない」と述べ、野党各党の党首からも、事件を厳しく非難する声が一斉に上がった。安全の確保に万全を期しつつ、粛々と選挙活動を続けることが肝要だ。

警察庁は、演説会場での警護や各地の自民党関連施設の警戒警備の徹底などを都道府県警に指示した。

選挙中は、政治家が不特定多数の聴衆と触れ合う場面が多くなる。警備の強化によって、かえって市民を政治から遠ざけることのないよう、細心の配慮が求められる。

衆院選の投開票まで１週間を切った。主権者である国民が、１票を投じて、政治への意思を示す時だ。暴力ではなく、参加を通して、よりよい政治をめざす機会としなければならない。

朝日新聞デジタル
2024年10月21日 5時00分
https://www.asahi.com/articles/DA3S16063298.html